副大臣の認証問題を考える

松原仁国交副大臣の拉致担当副大臣兼務について、認証が行われていないとの報道が成されている。情報ソースとして最速と思われたのが夕刊フジ系列(zakzak)であることから、瑣末な問題として捉える向きもあるようだが、同紙の取材による内閣府総務官室特別職担当のコメントから、少なくとも認証を行っていないことは事実であるようであり、そうであれば実は大きな問題を孕んでいる。

■副大臣とは
副大臣は大臣を補佐し、政務次官に代わり、実質的な省庁間の事前調整や実力者の登用による政府機能強化、国会答弁の活性化が期待され設置された役職である。
大臣と大きく異なるのは、大臣が「国政全般」に関わる者として「国務大臣」として認証されるのに対して、副大臣は権限が各担当のみに限られる点にある。大臣と異なり副大臣は「○○副大臣」として職掌を限定した形で認証される、ということである。
つまり大臣が他の大臣を兼務する場合には、既に「国務大臣」の認証が終わっているため、新たな認証を必要とせず、辞令のみで済ませることができるが、副大臣が別の副大臣を兼務する場合、法令上「権限外」の担当となるため、新たに認証を行う必要がある。
法令根拠は「国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律」ならびに「国家行政組織法」などである。
なお、省庁間調整においていわゆる「事務次官等会議」を廃止し、完全に「副大臣会議」へと移行がはかられたのは2009年の鳩山内閣下においてである。

■認証を行う意味
まず、認証官に対して認証を行う意味というのは、国民がそこに権限を委ねることを確認する意味合いがある。認証を行うのは天皇であり、これは日本国憲法第7条に基づく国事行為である。天皇という存在は憲法上「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」(同第1条)と規定されているため、この行為は間接的に国民がその権限を天皇という存在を通して委託することを象徴的に確認することにも通じる(ここで天皇を象徴として認めていない云々というのは無視する。現行憲法上の規定がそうなっている)。
加えて、国務大臣「ではない」以上、その権限を明確にすることが必要であり、認証式というのはそれを確認する場でもある。閣議決定権もなく、国政全般への関与が「認められていない」のであり、法令上認証官とされている以上、これを省くのは任命権者としては各種法令を無視する脱法行為であり、任命された側はその職務を行うことは明確な越権行為ともなり得る。
民主主義は基本的に法手続きを尊重し、順守することが求められる政治体制であり、このことは重要な意味を持つ。脱法・越権が安易に容認されるような状況や法が恣意的にゆがめられる状況は、民主主義国家としては致命傷に成りかねないのであり、到底容認されるべきものでもないだろう。

■遵法の精神を
副大臣の権限強化のために事務次官等会議を廃止したのは、いわゆる民主党マニフェストを実現した鳩山内閣の数少ない実績の一つではあるだろうが、その副大臣が「どのように規定されているのか」について、民主党がどこまで理解をしていたのであろうか。
そもそも今回の拉致担当副大臣が「内閣府設置法」で3人と規定され、その人数は既に埋まっているにも関わらず、さらに追加で松原氏を認証なく補任するのは、何重にも法を逸脱する行為であると言わざるを得ないだろう。
副大臣は大臣不在時にその職務を代行する職位でもある。このまま認証なく松原氏が拉致担当副大臣を続けるようなことがあり、加えて現大臣が不在で臨時とはいえ職務を代行するようなことがあった場合、これは「国務大臣」としての認証もなく、「拉致担当副大臣」としての認証もない人間が、同職を執行する形となり、法令上も由々しき問題を惹起することになるだろう。
事務次官等会議を廃止した理由は政治主導の強化に加え、同会議が法令上の根拠が曖昧であったことも指摘されていたはずである。そして、そもそも大臣として認証を行っていない場合(親任後組閣未了時等)、それは総理大臣自らが自らに対してその職務代行を発令するほど、大臣職は重く、また認証の法的位置づけも重いのであって、その認証官とされる副大臣という職に対して、そこを軽んじて良いはずもない。

■執るべき対応とそこから生じる問題
まず、今後とも松原氏を同副大臣として起用し続けたい場合、早急に認証を行うとともに、現副大臣のうち一人を罷免するか、もしくは内閣設置法を改定して副大臣職の人数規定を増加することが必要であろう。
そうではない場合は当然兼務を外す必要があり、その場合そもそも大臣に加えて副大臣を3人も抱えながら、なおかつ同氏にヘルプを求めた山岡大臣は何をやっているんだ、というかそもそも職務に相応しい人間なのかが問われることになるだろう(これは3人の現副大臣にも言える)。
兼務を外す、ということはそれだけ大臣・副大臣の起用に対して任命権者の見識にも通じる問題になる可能性はあるだろう。もちろん、松原氏を起用し現副大臣の誰かを罷免した場合も、同様にその見識は問われることになるだろうが。発足して、任命されて極めて短期で大臣・副大臣等が辞任に追い込まれ、また罷免されるという事態は近年決して珍しいことではないのだが、一体いつまでそれを繰り返すつもりなのだろうか。

追記として、その事務次官等会議が実質的に野田内閣で復活しているわけだが、民主党って一体何なのでしょうね、というのはこの際触れずにおく。

副大臣の認証問題を考える」への1件のフィードバック

  1. 本当に仰せの通りです。
    私はメディアがこの問題の本質の重大性を報道しないことにも嘆息を禁じ得ません。

    民主党は、行政が関係法規に規定されて運用されていることをよく理解していないと思われます。
    これは菅首相の浜岡原発の停止「要請」などに顕著になっています。
    原賠法を適用しようとしないのもそうです。

    法的根拠無く物事を動かそうとしますが、役人はその指示に絶対に従えないので、ぎくしゃくするのです。
    いや、法令根拠がないのだけは、わかっているのかもしれない。
    法令等に基づく決定には政治責任が伴いますから。
    一種のパワーハラスメント状態ですね。

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