フェティシズムへの偏見と境界線上の分裂

 「SMバー」が「口にするのも汚らわしい」ものですか。
 フェティッシュに対する差別・侮蔑発言以外の何ものでもありません。
 職業選択における社会的差別性の発露であり、同時に性嗜好という至って個人的属性であり私的領域であるはずのそれを議会の場で「汚らわしい」とおっしゃる。
 確かに発言中、大臣の資質について問うた、至って政治的背景のそれについては妥当な面もありましょうが、これほど酷い言い草も無いものです。
 なお、当人のあるかないか存じ上げない名誉のために申し添えておきますが、「明日、本会議にて質問に立ちます」という当人のエントリーにあるように、2014年10月28日衆議院本会議の「労働者派遣法」の改正における問題点について言及がされていますが、それは上記の動画ではカットされておりますので、「衆議院インターネット審議中継」の本日における当人の質疑部分にて確認しております。
また、些末な点ではありますが、「宮沢経産相批判 SMバーは「汚らわしいところ」と民主・菊田氏」という記事における、持ち時間の約半分を政治と金の問題に費やしたという記述は、約13分の登壇中およそ5分程度であるため、概ね正しいが若干誇張気味、という点は書き添えておきます。
 その後半の質疑においても、その発言中不正規雇用の不安定性、定収入性への言及において「若い人が安心して結婚し、子供を産み、育てることができる社会ではない」旨の言及については、上記の「汚らわしい」発言を鑑みて極めてステレオタイプなジェンダー規範を下敷きとしたものと判断せざるを得ないでしょう。職業選択の自由についても言及しておりますが(敢えて派遣や非正規雇用を選択する場合等)、そもそも「結婚」などしてもしなくても良いし「子を産み育てるか」も自由であるしそれが「若い人」に限られる話でもなければ「その懸念がなければ問題がない」問題ではない、という点で何重かの問題点は指摘可能でしょう。それに対する安倍首相の反対答弁がどうしようもない内容であることは事実として、大臣の資質なり政策の適切性を問う立場の質疑者が、そのようなステレオタイプな発想の上に、冒頭のような発言をする偏見に塗れたことを、わざわざ「噛んだので言い直す」ことまでして表現「する必要性」があったのか甚だ疑問でもあります。同時にそうする必要性を敢えて言うのであれば、それが「社会的に異端である」存在であることを自明に背景として持った上でそれを利用して資質の適切性として貶めようという意図が「無かった」とは到底考えられません。

 上記発言がいかに社会的に根深く偏見と憎悪、嘲笑の対象であるか、ちょうど良い例を別途頂戴しているので、併せてご紹介致しましょう。

 どうですか?根っ子の部分はまったく同一の偏見に根差したものでしかなく、特定の嗜好を以てそれを「反社会的」と容易に断罪することができる、そのような社会の背景を以て、冒頭の発言になったのでありましょう。なお、当該リプライを投げてきたアカウントが如何にその偏見と憎悪に塗れているかは、アカウントそのものの一連の発言を見ても容易に理解可能です。異性装者を犯罪者や詐欺師と呼び、そうであるだけで「反社会行為」として連日連夜ポストし続ける異常なアカウントなので、正視に堪えませんが。
 そのアカウントが日頃何を書いているかも併せて例示しておきましょう。
1「朝日新聞の私の視点の、高垣雅緒さんの考え方はどう考えても危険思想で、性別変更で身体の状況の要件は必須です。

そもそもの大前提として、男が本物の女にはなれませんし、女が本物の男にはなれません。
ですので、戸籍の性別変更する当事者は、少なければ少ない方が良いです。
それにしても問題なのは、法令遵守していない女性に詐称や偽称や偽装した詐欺犯とかメディアで正当化していることで、無法状態になりますし公序良俗に反しますし治安や秩序等を乱しますので取り締まった方が良いです。
(中略)
性別の取り扱いの国の法律の改正をすることがあるのでしたら、完全に異性装者であるとか完全に同性愛者であるとかの要件は必須で、該当しない場合とかは、一度変更した戸籍の性別を簡単に元の性別に戻せるようにした方が良いです。

 ここで「詐称」や「偽称」、「偽装」とされ「詐欺犯」とされているのは、異性装者や性転換者、あるいはオネエだのオカマだのと称される人です。それを「公序良俗違反」だの「治安秩序を乱す」だのと言って取り締まれとしているわけです。冒頭の発言とこの発言との壁は極めて薄いものでしょう。

2「第三の性とか、LGBTの性別の

多様性のごちゃまぜ活動とか、法令遵守していない女装した詐欺犯とかメディア等に出さないようお願いします。
LとGだけなら、同性婚の法整備を願っているとすぐに理解できますけど、Bの男でも女でもいいとか、Tは性別の混乱とかで、LGBTのごちゃまぜになると性別の多様性という、性別がいくつもあるかのように見せかける活動となり、どう考えても社会の理解は得られないと思います。
日本は法治国家で性別の取り扱いの法律も施行されていますので、LGBTの性別の多様性と称して性別がいくつもあるかのように見せかけるのは、犯罪を助長し幇助し加担する反社会活動となってしまいます。
(中略)
ともかく、第三の性とか、LGBTの性別がいくつもあるかのように見せかける活動とか、法令順守していない女性に詐称や偽称や偽装した詐欺犯とかはメディア等に出さないようお願いします。

 BとかTは「法令順守していない」んだそうです。なお、当該「法令」が何に該当するのか知りませんが、戸籍法でないことは事実でしょう。民法でもないでしょうね。あるのは「社会規範」と「普通」原理だけです。

3「一度変更した戸籍の性別を元の性別に戻す再変更を求めたら却下になり、抗告しても、棄却になりました。

性別の取り扱いの法律が国策で正しいならば、そのように、もっと周知徹底すべきなのに、法令遵守していない女性に偽装した男性とかがCM等メディアに出ているのは、明らかに国家反逆的行為で早急に取り締まるべきです。

 一部確かに女装して盗撮に及ぶといった不届き者がいることは十分承知しておりますが、異性装者を「法令順守していない偽装」やら「国家反逆的行為」とやらと平然と書き連ねる性根がどれほどおぞましいか、指摘するまでも無いでしょう。

4「女性に偽装した男性のことを、オネエとか、女性であるかのように偽称して欺いて騙すのは悪質卑劣すぎます。

メディア等で、オネエとかいう男性が出ているようですが、お姉さんという呼び名の短縮形のオネエは女性に使用される言葉です。
オネエではなく、オニイが正しい呼称で、日本語の使い方が間違っています。
戸籍の性別が男性なのに、オネエと女性であるかのように偽称して、不特定多数の日本国民を騙そうとするのは詐欺行為です。

 一体、一般に「オネエ」と称される存在が「女性」を偽装しているとか、それに「不特定多数の日本国民」が騙されるなどというのは被害妄想どころか、想像力がゲシュタルト崩壊しそうですが(寡聞にしてそのように騙された存在はほとんど知りません。ごく稀に初夜に相手が同性だと初めて知った、という系統の海外のニュースが散見されるのは承知していますが、それもかなりのレアなケースではありましょう)。

 当該サイトは「女装犯」と只管異性装であることを以て即断に犯罪者であり取り締まるべき規範・治安対象としてしか見ていないので、これ以上引用すると吐き気どころか実際に嘔吐しかねないので止めておきますが、フェティシズムを含めて、性的少数者はこのような偏見と憎悪と嘲笑との社会規範の中に存在します。今も、です。敢えて「性的少数者」と書いたのは「性的指向」も「性的嗜好」も何れもがそれに該当するからでもあります。そこから、或は辛うじて社会的には性同一性障害に対する理解が進みつつあるとはいえ、現実は直接表現せずとも、そのようなものです。反社会的、反生物的、或は伝統の家族を壊す、汚らわしい、全て同一線上に当事者にぶつけられる社会の偏見そのものです。
 大臣の資質を問うのは大いに結構で、問われるべき点はいくらでもありましょう。それは大事なことです。派遣労働者法の改正可否、その内容も重要な問題です。そして「同様に」菊田議員の見識についても、その一言だけで十分に問われるべき内容でしょう。国会の場で、議事録にも録画にも残る形で、明瞭且つ直接的に偏見をぶつけているのですから、「女性が輝く社会」どころか「少数者が報われない社会」そのままですね、と。
 こういうことを書いていると、愛国気取りの痴れ者やら保守を自称する教条主義者がここぞとばかりに「だから反差別は」とか「だから民主党は」と書き連ねるわけですが、そういうところにわざわざネタを提供したくない気持ちは百も二百もありますが、それでも指摘されるべき偏見の一つではありましょう。
 是非、日頃差別問題に熱心な同民主党の有田議員には、この菊田議員の偏見を問い質すことを期待したいものです。ヘイトスピーチやヘイトクライムは何も人種差別に限ったものではありませんし、わざわざ引用した偏見塗れのBlogも「これがヘイトスピーチでなくて何なのか」というくらいにヘイト塗れですので、当然に射程に入れるべきものでしょう。その性質上。個人的にはまったく期待していませんが、せめて日頃の言動に則って対応頂きたいものです。逆に言えば、そこまで射程に入れずに「人種差別禁止法」ではなく「ヘイトスピーチ規制法」に拘るのであれば、従来通りその法案には自身の信条に沿って「原則反対」を改めて表明しておきます。
 
 
 
 
 
 
 
 最後に菊田議員とは関係ありませんが関連引用したBlog主のアカウントの中の人へ。「バイセクシャル」で「異性装趣味者」で「たまにオネエ言葉」を使うこともある自分が(言葉そのものは最近あまり出なくなりましたが)、「反社会的」で「治安紊乱」に値し「取り締まり」の対象として然るべきで、そうしたいのであれば、いくらでも不法行為でもなんでも訴えてご覧なさい。ツイッターで各報道機関の公式アカウントにつまらないタグをつけて連日ポストするような下衆な真似を繰返すくらいなら。もっともその前にアカウント凍結されても知りませんが(規約違反に十分該当するでしょうから)。
 そういうクソッタレな社会を創りたい、維持したいなら、それをひっくり返してその不条理を「当然に不条理として捉える」社会を対置してやりますよ。その時が10年後か100年後か1000年後か知りませんが、必ず、その不条理を糾弾し糾弾することが当然である社会を対置してやりますとも。たとえそれが「反差別」だの「反レイシズム」だのの最後尾で最も無視に足る存在であったとしても、それであるからこそ、必ずそういう方向に持って行ってやりますとも。「普通」どころか「LG」からも分断され、或は憎悪さえされる「B」や「T」のうち、少なくとも自分は「B」には該当するわけですから、自身の生存と信念の下に、必ずそうしてやります。その時に復讐してやろう、と思うかどうかは感情の生き物故に解りませんし、そもそもそういう社会が出来た時に自分が存命であるかどうかも怪しいところですが(それは同時にアカウントの中の人も)、せいぜい信じる社会正義が転換した際、それに追われる側にならないことを祈っていると良いでしょう。自分だってそのような復讐の連鎖など望みはしませんし。ただ、個人的にはあそこまで侮蔑・罵倒が書き連ねてあることに対して、憤懣を抱かないと言えば嘘になりますので、何等かの対応をしたとしてもそれは応報として指摘してあげますよ。もう十分書きましたが。境界線上の「どちらでもない」存在を片っ端から二分法で瞬断する社会そのものを、変えてやりましょう。自分の力がいかに微力であれ無力であれ、そういった想像力の欠片もない二分法社会には抗いますとも。そしていつの日か、それをひっくり返してやりましょう。自分と同じような存在が、10年後、100年後、1000年後に少しでもマシな社会を享受できるために。反社会、治安紊乱上等ですとも。勝手な線引きで「線を引けない」存在が確かに其処に、此処に存在するという、たったそれだけの想像もできず許容もできない社会であるなら、いくらでもその社会を変えていきますとも。

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